■王道の狗 1 (1)
■安彦 良和
素晴らしい。ていうかみんな読め。
政治的にどうとか、思想的にどうとかいう以前に、人物が、絵が、痺れる。
登場人物は全員、本気で生きている。全力で。
出し惜しみとか、力を加減するとか、そういうことを知らない。
莫迦だ。
俺もこんな風に生きることができる時代だったら。
いや、時代のせいにするのは卑怯ですね。
途中、えええ?と思う箇所もあった。
「アジアは仲良くね〜」という、
「それが簡単に出来たら誰も苦労せんわ!」と思う箇所や、
ファーストガンダムに関わった人間とは思えないくらい
正義と悪を二元論的に割ってしまう箇所が多くありましたが、
そういう思いすら安彦氏の掌の上で踊らされていたということらしい。
前者は第四巻の285頁において、睦奥宗光の語るたった一コマ
「中華帝国こそアジアの不動の盟主と考えている彼等は
日本との対等な友好なぞ考えていない!(後略)」で、
後者は「あとがき」の
「王道と覇道という両者の対比、腑分けを、意識してあざとく描く事に努めた。」
という一文でひっくり返されてしまった。
やられた。
俺のような小物の考える事などお見通しか。
常に語られるその画力については説明不要です。
あえて語れば、帯の推薦コメントをくれた漫画家さん達にははなはだ失礼ですが、
どれもコメントが的確で、かつ帯のイラストが全部「子供の落書き」に見えてしまいます。
平野氏の「なんて安彦さんはエロいのだろう」や
久米田康治氏の「三度生まれ変わっても届かぬ」等。
僕もBlind Blakeの"Blind Arthur's Breakdown"が間違って弾けてしまったら
その瞬間に心臓が止まって死ぬだろうな、と思った事があります。
心ある漫画家の皆さんは皆こう思っている事でしょう。
「あんな絵が描けたらこんなことはしていない!」と。
恥ずかしながら、安彦氏の漫画は「オリジン」が最初で、
今回ようやく重い腰を上げて他作品を読んでみたのですが、
この一作で、自分の中で新井英樹氏の次点くらいまで来ました。
最高っス。